先日、紹介されて「奇跡の脳」を読みました。本書は、神経解剖学者・脳科学者の
ジル・ボルト・テイラー博士が、37歳の時に脳卒中の発作にみまわれるのですが、
その彼女の脳の機能が損傷していた際の驚異的な意識の変容と8年間の回復過程
を綴った記録です。
脳には左脳と右脳がありますが、彼女の場合、左脳に大きなダメージを受けまし
た。そして、左脳の言語中枢および方向定位連合野が機能しなくなり、彼女は
右脳の意識の中にある、深い内なるやすらぎを体験したのです。
「ジキル博士とハイド氏」の中では、ハイド氏が象徴する右脳の個性は、制御不
能で生まれつき凶暴な、卑しむべき無知な人格として描写されており、意識すら
持っていないと非難されています。左脳はこれとは全く対照的に、言葉を操り、
順序が解り、方法を考え、理性があり、利口だと解釈されています。
しかし、ジル博士は、右脳の意識の中核には、心の奥深くにある、静かで豊かな
感覚と直接結びつく性質が存在している、また、右脳は世界に対して、平和、愛、
歓び、そして同情を表現し続けているという事を身をもって体験しました。
2001年以降の研究で、チベットの僧侶や修道女が、瞑想のクライマックスに達す
るか神と一体になったと感じたとき、脳の中の非常に特殊な領域で、神経学的な
活動が変化することが明らかになりました。
まずはじめに、左脳の言語中枢の活動の減少が見られ、脳のおしゃべりが沈黙し
ます。次に、左脳の後部頭頂回にある方向定位連合野の活動の減少が見られまし
た。
この部分は、その人の肉体の境界の判別に役立っています。この領域が抑制され
るか、感覚系からの信号の流入が減少すると、まわりの空間に対して、自分がど
こから始まりでどこで終わっているかを見失ってしまうのです。これが、個人の
意識から離れて、宇宙と「ひとつ」であるという感覚を生み出すというわけです。
ということは、チベットの僧侶の瞑想状態や、修道女の深い祈りの状態は、左脳
の活動を抑え右脳優位な状態となっているのでしょう。ジル博士は脳卒中でひき
起された左脳損傷によって、この右脳優位状態となったのです。
ジル博士は、この右脳優位な状態がとても心地よく、手放したくありませんでし
た。そこで回復リハビリの過程において、意識的に自分の嫌いな左脳部分の神経
伝達回路を閉じたままにしようと試みたのです。彼女は、次のように話していま
す。
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脳卒中を起こした事により、感情をどう「感じる」かのコントロールができるよ
うになった。名付けて「右脳マインド」。
わたしがあえて回復しないようにしたのは、自分や他人に対して意地悪になった
り、絶え間なく不安になったり、あるいは、口汚くののしってしまうような左脳
の一部でした。
はっきり言って、生理的に感じるこんな感情が嫌でたまらなかったのです。胸は
苦しくなり、血圧が上がるのを感じ、眉根が寄って頭痛がします。痛ましい過去
の記憶をその場で再生しようとする古い感情的な回路なんか、みんな捨ててしま
いたかった。
過去の苦痛に心を奪われるには、人生があまりにも短い事を知ったからです。
左脳の招かれざるループ(私がよく使うネガティブ・スパイラルと同じでしょう)
をシャットアウトするためには、
1.魅惑的で、もっと深く考えを巡らせたいことを思い出す。
2.ものすごく楽しい事を考える。
3.何かやりたいことを考える。
招かれざるループは、身体が疲れていたり、精神的に参った状況にやってくる。
しかし、マイナスの感情が押し寄せたときに、その感情を尊重することも大切で
はあります。
感情をうまくコントロールするには、生理的な(ネガティブな)ループがやって
来た時は、それがもたらす感情にすべてを委ねるのが一番です。
90秒間(感情による神経伝達の時間)の、その回路がやりたいようにさせれば
いいのです。
子供と同じで、感情は聞いてもらったり認めてもらったりすると収まるものです。
時間がたつと、こうした回路の強さと発生の頻度は弱まるのです。
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上記を見ると、ネガティブな感情に囚われずに快適に生きるためには、「感謝の心」
を持つための例えばホ・オポノポノの「ありがとう」「ごめんなさい」「許してく
ださい」「愛しています」の言葉や、心からの祈りの言葉を唱えたり、瞑想、感謝
想起等は、脳科学レベルにおいても有効であると言えるのでしょう。
また、上記に書かれている通り、感情による神経伝達回路を訓練することによっても、
ネガティブ・シンキングを脱する事が可能となるのです。
もしかすると変性意識状態や催眠状態も左脳を黙らせ、右脳に働きかけ易くする状態
なのかもしれません。
幸福否定の構造(幸福感を無意識のうちに否定してしまう心因性の症状)は、左脳と右
脳のバランス障害と考えることもできます。
物をはっきり申す欧米文化と、曖昧な表現で意思疎通を図ろうとする日本文化もまた、
左脳と右脳の働きのバランスの違いで解釈できるかもしれません。
い・・・・・・・・・・・で判断する。
上記は、この本からの抜粋です。右脳・左脳に関しては、他にも違った解釈がある
のでしょう。
右脳側に偏り過ぎては、この世の枠組みから飛び出してしまうかもしれませんし、
左脳側に偏っては、極度の唯物主義的になるのかもしれません。ジル博士は、脳卒中
前は、どちらかというと左脳寄りだったのでしょう。
脳卒中を起して右脳優勢になったとき、未知に近い世界を体験していたのでしょう。
それにしても、このように自分自身を客観視する姿は、素晴らしいですね^^
最後にジル博士の言葉を・・・
脳卒中の最初の日を、ほろ苦さとともに憶えています。左の方向定位連合野が正常に
働かないために、肉体の境界の知覚はもう、皮膚が空気に触れるところで終わらなく
なっていました。アラビアの精霊になったような感じ。大きな鯨が静かな幸福感で一
杯の海を泳いでいくかのように、魂のエネルギーが流れているように思えたのです。
肉体の境界がなくなってしまったことで、肉体的な存在として経験できる最高の喜び
よりなお快く、素晴らしい至福の時がおとずれました。意識は爽やかな静寂の流れに
あり、もう決して、この巨大な魂をこの小さな細胞のかたまりのなかに戻すことはで
きはしないのだと、わたしにはハッキリとわかっていました。
左脳の言語中枢が徐々に静かになるにつれて、わたしは人生の思い出から切り離され、
神の恵みのような感覚に浸り、心がなごんでいきました。高度な認知能力と過去の人
生から切り離されたことによって、意識は悟りの感覚、あるいは宇宙と融合して「ひ
とつになる」ところまで高まっていきました。むりやりとはいえ、家路をだどるよう
な感じで心地よいのです。